病床にて

夜遅くに仕事から帰って来るが、寒さでガチガチに凍ったボッコ靴(わらで編んだ長靴状のもので現代のブーツのような紐かけ金具がついている)の紐がほどけないので、靴のまま炉端に這い上がり、その炉端の温かさで靴紐の解けるのを待ちながら親戚のおばさんが作って下さった食事をするのだが、慣れない仕事に加えて、寒さのなかのきつい仕事なので疲労困憲し、食事をしながら知らぬまにその場で横になって眠りこけてしまうことが度々あったようである。その姿をおばさんたちは「可哀相に、疲れただろう」と言って靴の紐を解き、二人して寝床まで抱き抱えて行ったと、後に師匠と奥様の二人で豊富に行った時、昔の思い出話の中で当時の事を聞かされ驚いたという。
現代の子どもはどうであろうか?時代が遠うと言われればそれまでであるが、機械化が進んだ今、その当時のような苦労はしなくてもいいであろうし、十四、五歳ということは中学生である。中には家の手伝いなどをして仕事の経験がある子もいるかも知れないが、殆どの子どもは学業に精を出している年齢であろう。平和で物質的にも経済的にも恵まれている現代の子どもには、このような過酷な境遇に耐え得るだけの体力も精神力も求められていないのかも知れない。またそれを求めても「何の意味があるの」と反対に質問が返ってきそうである。