風の中の声

バスも船も通えなくなったときの不安が、胸をしめつけてくる。陸の孤島というより、大海原の船の中で、荒波にもまれているような気さえしてくる。ここへ来たときから、なんとなく感じていた不安は、こういうことだったのだろうか。揺れる船の中に、公署の人や開拓団の人が、みんな不安そうな顔をして乗っている。赤ちゃんを抱いた母もいる。みんなを中にして船べりでは、男の人たちがいっしょろうけんめい櫓をこいでいる。雨靴で開拓村から開校式に駆けつけて来た誠くんのお父んは、やっぱり雨靴のまま顔を赤くしてこいでいる。眼鏡を外した耕平くんのお父さんは、頼りない顔に見えるが、歯を食いしばって頑張っている。キクちゃんのお父さんは、ねじり鉢巻だ。よく見ると鉄朗も祖母もいる。鉄朗は、もうわたしの弟だ。羽根をたたんだカケスが一羽、目をきょろきょろさせて遠慮深く一緒に乗っている。いつも公園の木にとまっていた鳥だ。なぜ飛んで行かないのだろう。おまえには羽根があるんだよーああ、やっぱり一人で飛んで行くなんて、寂しくて怖いんだね……。